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福島次郎先生へ愛をこめて「蝶のかたみ」「バスタオル」感想

どうも、どぶです。

昨日audibuleで「推し、燃ゆ」を聞き終えてから、ずっと考えていた推しのこと。
私にはこれまでの人生で推しといえる人はいませんでした。
今年の春、福島次郎先生に出会うまでは───

皆さんは作家「福島次郎」をご存知でしょうか?
もしかしたら文学好きのゲイ・腐女子の方や、三島由紀夫先生ファンの方でしたらご存知かもしれません。
私はゲイですが、ついこの間まで知りませんでした。

はじめに福島次郎先生のことを軽くご紹介します(といってもwikipedeiaの引用ですが)

福島 次郎(ふくしま じろう、1930年(昭和5年)- 2006年(平成18年)2月22日)は、熊本県出身の小説家。
高校の国語教師。
同人誌に掲載した短編小説『バスタオル』(1996年)で第115回芥川賞候補になったほか、三島由紀夫との同性愛関係を取り混ぜた自伝的な実名小説『三島由紀夫――剣と寒紅』(1998年)を刊行したことで一時ジャーナリズムを騒がせ、三島関連界隈で名を知られるようになった人物である

上記にある通り『三島由紀夫――剣と寒紅』にて三島先生からのお手紙をそのまま公開してしまいます。(福島先生は大学生時代、三島先生のもとで書生のようなものをしておりました)
そのことで三島先生の遺族の方に訴えられ「剣と寒紅」は回収騒ぎになったので、当時のニュースや週刊誌での報道を覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
その頃まだ四歳だったわたしは今の今まで、この件を全く知りませんでした。

私が福島先生のことを知ったのは数か月前。
福島先生の「バスタオル」という中編作品をBL文学として紹介しているブログ記事を偶然見つけたことからでした。

「バスタオル」は高校教師である兵頭が教え子の墨田とセフレになり最後はお別れする悲恋物語です。
ラストは二人の精液をふんだんにしみ込んだまま放置され異様な臭いを放つバスタオルと、行き場のない射精しかできないホモである自分自身を重ね合わせて終わります。

こちらの作品は芥川賞の候補にもなっており1998年11月に文藝春秋が出版した「蝶のかたみ」という本に収録されております。
なお「バスタオル」が芥川賞候補になった際には石原慎太郎(福島先生の2歳年下)に称賛されております。
のちに同性愛者に対し「どこかやっぱり足りない感じ」と評したあの石原慎太郎に称賛されているのは、何とも皮肉ですね。

この本のもう一方の収録作であり表題作「蝶のかたみ」は弟を亡くした兄が、弟が最期に暮らしていた一人暮らしの部屋を片付けに行くお話です。
なんとこの物語に出てくる兄弟は二人ともゲイです。しかも種違い。
好きな男のタイプも、兄はがっしりとした男くさい芋っぽい男が、弟はジャニーズアイドルのような男がタイプと正反対です。
教師という堅実な職の兄に対し、弟は水商売(しかも今でいうホス狂い)。
考え方から生き方まで、ほんとに何もかもが違っている兄弟です。
そんな何もかもが違っている兄弟にとって、唯一の共通点はゲイであることだけでした。
しかしゲイであるが故にお互い同族嫌悪で、ろくに連絡も取りあわない関係性のまま60代になっていきます。
結局最期まで弟のことをよく知らなかった兄が、亡き弟が暮らしていた部屋(おんぼろアパートの汚くて狭い部屋)で遺品整理をしながら弟の人生に思いを馳せる・・・という何とも切ないお話です。

「バスタオル」を紹介したブログ記事を読んだ私はすぐさま図書館で「蝶のかたみ」を借りて、読み耽りました。
20歳のころに読んだ伏見憲明先生の「魔女の息子」以来のゲイ小説でした。
「蝶のかたみ」を読み終え、わたしはすぐさま福島次郎先生のファンになりました。
自分の感覚にピッタリと合うピースを見つけたこの感覚・・・久しぶりでした。

「魔女の息子」も「蝶のかたみ」もゲイとしてのやるせなさ、倦怠感みたいなものに強く共感できた作品でした。(魔女の息子は読んだのが昔すぎて内容をあまり覚えていませんがそんな印象が残っています)
福島先生の作品にしろ、伏見先生の作品にしろ、ゲイ当事者によって書かれたゲイがテーマの小説は、私にとって大変な貴重価値があります。
ゲイでありながらもゲイの世界になじめない私にとっては非常にありがたい存在です。
一つは自分以外のゲイの生き方を知ることが出来るから。
もう一つは小説家という言葉の魔術師が、日頃感じているうまく言い表せられない頭のモヤモヤ、微妙な感覚を巧みに言語化してくれるからです。
そうそう、これなんだよ。これがモヤモヤ感の正体なんだよ。ってね。

福島先生の作品の多くは自身の経験を基にした、いわば私小説的なものがほとんどです。
明治から昭和、親子3代にわたる福島家の歴史を描いた「現車」から晩年の作品に至るまで、細切れですが福島先生の一生が作品に刻まれています。
一人のゲイ作家として生まれてから死ぬまでを克明に描いた先生は本当に私に勇気と元気を与えてくれます。
ゲイであろうとも女性と結婚するのが当たり前だった時代に、最期まで独身を貫き通した先生。
風当たりが強いであろう地方で、ゲイであることをオープンにしていた先生。
汗だくになりながらお気に入りの銭湯へ足繫く通う先生。
その帰りには行きつけのゲイバーで田原俊彦の「NINJIN娘」を楽しげに歌う先生。
会ったことも話したこともないけれど、飄々として茶目っ気たっぷりの先生が私の頭の中に住み着いてしまいました。

高校教師をしながら地元熊本の文芸同人誌で作品を発表し続けた76年間の人生で、先生は何冊か本を出版なされました。
しかしほぼすべてが絶版で、現在絶版にならず販売されているのは論創社より出版されている『現車』前後篇のみです。

「蝶のかたみ」→「現車」→「仮面の告白」→「禁色」→「剣と寒紅」と途中、福島先生とは切っても切れない三島作品を挟みながら過ごしたこの数か月・・・
つい先日、2005年刊行の福島先生著「淫月」を読み終えました。
残すところは2006年刊行の「華燭」のみ・・・
嚙み締めて読みたいと思います。
正確には同人誌に発表した作品もたくさんあるのですが、国会図書館デジタルで読めるのはごく一部・・・
一番読みたい「塵映え」(福島先生が大学時代のアレコレを描いたとされる作品)は、先生の地元である熊本県立図書館にしか所蔵されておりません。

残念ながら福島先生は2006年の2月に76歳で膵がんで亡くなられました。
もうこの世にはおりません。

私が生まれる何十年も前に亡くなっていたなら、まだ諦めがつきます。
ただ私が小学5年生のころまでは福島先生は生きておられたのです。

先生が亡くなられてから17年。
もしそれよりも前に先生の作品に出会えていたのなら、この思いを先生に直接伝えられていたのになぁ・・・という気持ちでいっぱいです。
とはいえその頃の私はまだ精通もしておらず、ホモであると自覚する前だったのですが。

29歳の今、福島先生に出会えたことで私は人生初の推しを見つけました。
とっくの昔に死んじゃってるから今後一切新作は読めないけれども、先生のことをもっともっとたくさんの人に知ってもらいたいです。
過去に地方在住ゲイとして、面白い作品を地元の同人誌で数多く発表し続けた一人の男が存在していたことを。

福島次郎先生へ愛をこめて・・・

P.S.
福島先生の「バスタオル」をブログにて取り上げてくださった方に感謝を申し上げます。

どぶ